税制改正(平成28年度)解説シリーズ2(個人の税金:所得税その2)

さて今回は前回に引き続き、税制改正(平成28年度)解説シリーズ2として、所得税(個人に対する課税)の主な改正内容を案内させていただきます。
 

今回のブログを書いていて改めて感じたのですが、税制改正を見る、というのは同時に「社会の動きを見る」という事でもあると思います。
 私などは今回の大綱を読むまでは、「セルフメディケーション」とその背景を知りませんでした。何事も、事柄の表面だけでは無くその裏にあるもの、本質は何か、という事を自分で考えてみることが大切だと感じました。
 
1. 国外転出等のみなし譲渡所得と上場株式等に係る譲渡損失の通算等


近年、各国における税率の差などに着目した富裕層の海外移住が注目を浴びていました(例えば、香港やシンガポールでは相続税がかかりません)。
そこで昨年の税制改正の目玉の一つとして、含み益を有したまま海外移住をした場合の課税として、“国外転出等をした場合に所有している株式等の含み益部分について「譲渡したとみなして」課税する”という制度が設けられました。
さらに今回の改正で設けられるのが、既存の上場株式の譲渡損失や損失の繰越の制度の対象として、上記「みなし譲渡」を相殺することができる、という規定です。


相続税対策としてのこの“みなし譲渡”制度の創設はやむを得ないでしょう。ただし譲渡したとみなすのであれば、他の譲渡で認められている損益通算や損失繰越が認められないのはある意味“片手落ち”とも言えるでしょう。
税制改正で作られる法律(税法)は国税庁や法務省で綿密に練り上げて検討されて完成するため良く出来上がっています。ただしそれでも人間のする事には限界があり、不足部分も出てくることがあり、その場合には、今回のように随時の税制改正で手当てされ、より完成度の高い仕組みとなっていくことになります。

2. セルフメディケーション(自主服薬)推進のためのスイッチOTC薬控除の創設


まずセルフメディケーションとは何でしょうか?答えは、
「自分で治療できる軽い症状のものは、病院にかからず市販薬を服薬することで自分で治しましょう」
というもので、国民皆保険の無い米国で発達している仕組みです。


 国民皆保険制度のある日本ではまず病院にかかるのが習慣となっておりこれが医療費の増大の原因の一つであるとの国の考えのもと、セルフメディケーションを税務面でも促進する事で医療費の削減の方向付けを行う事を目的として創設される制度です。
 またこの制度の目的が「医療費の削減」にある事に関連して、この制度の適用を受ける場合には従来の医療費控除制度の適用を受ける事が出来なくなります。
 従って確定申告の際にはどちらが有利な制度になるのか検討した上で、選択する必要があるでしょう。
 具体的な制度内容としては、


健康維持促進及び疾病予防のため一定の取り組み(※1)を行った方(※2)が、一定のスイッチOTC医薬品(※3)を購入した場合、1年間の合計額が12,000円を超えるときは、その超える部分の金額(88,000円を上限)を所得税・住民税の申告において控除します。


※1 一定の取り組みとは、予防接種や定期健康診断、がん検診などを指します。
※2 本人及び同居する配偶者その他の親族を負担した分を含みます。
※3 一定のスイッチOTC医薬品とは要指導医薬品及び一般医薬品のうち、医療用から転用された医薬品、とされています。おそらく薬局で購入された時に該当するか尋ねられると良いでしょう。

それでは今回はここまでとさせていただき、引き続き次回も個人の税金に関する改正についてご紹介させていただきます。

2016年01月29日